短編小説

鏡と悪魔

鏡と悪魔 鏡を上にしたまま置いておくと、夜の間に悪魔が鏡に入り込むんだって、という話を聞いた。何も特筆すべきことがない今日の中で、そのいかにも都市伝説らしい話は、よりいっそう怪しさを纏っていた。 二十何回目のスヌーズで起きて、六時四十六分の…

生けるアステリスクたち

屋根の上、瓦はぬるく足の裏を冷やす。生温かい空気が肺に沈み込む夏の夜。見上げずとも目に飛び込んでくる夜空を、僕は受け止めた。受け止めきれなかった夜は、首を回して捕まえた。 駆け足の雲が月に追いついた。太陽の沈んだ世界は色彩を奪われ、わずかな…

暁の頃には地球を出ます

明日の朝にはもう出発します。 時計の針が二十三時すぎを指しています。今はまだ今日ですから、あなたがこれを読むのが明日であっても、ここでの基準は「今日」です。 明日の朝、あなたが枕から顔を起こして、カーテンを開けて、眩しさに目を細める。その瞬…